こんにちは。湘南の不動産手続専門家、ショウ先生こと永田翔です。
最終学歴は中卒ですが、司法書士・行政書士・土地家屋調査士・宅建士などの資格を持っております。
今回は同業者(司法書士)の方から聴いた、実務上のトラブルについてTwitterに投稿したところ、ほかの同業者の方から色々ご意見や反応をいただけたので、記事にしてみました。
この記事を読むと、どのようなトラブルで、実際に遭遇した司法書士はどう対応したのか。そしてどうすればそのトラブルを防ぐことができたのかがわかります。
目次
まずは私が書いたツイートをご覧いただきたいと思います。
同業の方から聴いた話。体調不良のため、残金決済の場に来られないという売主と事前に面談し、書類もお預かり。決済当日は予定通りご兄弟が代理で出席。滞りなく残金支払・鍵の引き渡しなどが済んだところで代理出席していたご兄弟から「そういやアイツ(売主ご本人)死んだから」。どうするのが正解?
— ショウ@中卒士業トリプルライセンス (@sho2net) March 12, 2022
これに対してTwitter上で他の同業者(司法書士)と思われる方からは、返信・引用リツイートで次のような反応をいただいておりました。
- ちょっとヤバ過ぎてどうにもならない気がする。
- 怖すぎる
- 怪談以上の怖さ
- うわ〜シビア過ぎますね…。それ聞いちゃったら多分瞬間思考がフリーズして、冷汗脂汗が吹き出るだろうなぁ…。 どうするのが正解か、すぐ答えが出ないです
私のツイートに書かれていた内容。いったい何がそれほど問題だったのでしょうか?
一般的な不動産売買では、取引の流れはこんな感じです。
ほとんどの不動産売買では契約の日に所有権移転をするわけではありません。
不動産の売買契約書には一般的に「所有権移転時期の特約」という特約がついています。
次のような内容です。
本件不動産の所有権は、買主が売主に対して売買代金の全額を支払い、売主がこれを受領した時に売主から買主に移転する。
この特約がないとどうなるのでしょうか。
実は民法の原則どおりにいくと、契約をした瞬間、売主はまだ売買代金ももらっていないうちに所有権が買主に移転してしまうことになるのです。
そのためにこの特約をつけて、「代金を支払ったら、不動産の所有権が移転するよ。」という形にすることが一般的です。
契約の日には買主から売主に対し、売買代金の一部として手付金を支払います。
そしてお互いに準備をするための期間を設け、「残金決済日」「決済日」などと呼ばれる日に、次のようなことを行います。
- 買主から売主に、残代金の支払い
- 売主から買主に、建物の鍵や書類など不動産に関わるものの引き渡し
- 所有権移転登記
ここで売買代金の残り全額が支払われ、特約どおりに売主から買主に所有権が移転します。
そこで売主は買主に引き継ぐべき書類など(建物があれば鍵も)を引き渡します。
そしてお互いに協力して登記手続を行います。司法書士に依頼をする場合は、それぞれが必要な書類を司法書士に預けます。
ところが今回のケースでは、残金決済日前に売主が死亡しました……
このような場合はどうなってしまうのでしょうか?
結論からいうと、「買主への所有権移転の前に、売主に相続が発生した」場合は、そのままでは売主から買主への所有権移転登記はできません。
まずは売主から、売主の相続人への相続登記をしなければいけないのです。
こんなときどうする?
残代金支払の日までに「売主がなくなりました」という連絡を受ければ、通常このような対応になると思います。
急いで相続登記の準備を進めますが、残代金支払の日までに間に合わなければ、日を先に延ばしてください。
残代金支払の日の当日、代理人にお会いした直後に、売主さんご本人が亡くなっていることを知った場合は、通常このような対応になると思います。
申し訳ないのですが、このままでは決済の手続ができないので日をあらためていただくほかありません。
しかしこの話をしてくれた同業者の方は、売主ご本人が亡くなっていることに気づかないまま、きっとこういってしまったのだと思います。
書類は揃っておりますので、所有権移転登記は問題なくできますよ。残代金の支払いや建物の鍵の引き渡しなどを進めてください。
そして、無事に一通りの手続や引き渡しが終わり、その場が解散となるところで売主の代理人(ご兄弟)から
そういやアイツ(売主ご本人)死んだから
と言われて、焦ることになったわけですね。
ただこの代理人の方にも悪意というか、特に隠しておくつもりはなかったのだと思います。
隠しておくつもりだったのであれば、このタイミングで言う必要もなかったのですから。
きっと代理人だったご兄弟としては、売主ご本人の生前に司法書士に必要書類は預けたのだから、死んでもそのまま手続ができると思っていたのでしょう。
だから特に売主ご本人の死亡が手続上は重要なことだとも思っておらず、解散のタイミングでついでのように伝えたのだと思います。
本当はこんなときどうするべきなのだろうか。
繰り返しになりますが、本来は売主から、売主の相続人への相続登記をしなければいけません。
ですから
確認不足で申し訳ございません。売主ご本人様が亡くなっていらっしゃったということであれば、登記はできないのです。今更で申し訳ありませんが、残代金や鍵など、今日引き渡したものを元に戻していただけませんか?
相続登記の準備が整った段階で、あらためて残金決済の日取りを決めてください。
とお伝えすべきなのだと思います。
ただ売主様・買主様それぞれに、お金の工面・引っ越しなどのご都合があるかもしれません。
また買主様が銀行などで融資を受けて購入されている場合、一度銀行から融資実行されたお金を戻してもらう必要なども出てくると思います。
当事者に非常にご面倒をおかけするだけでなく、司法書士としても銀行への出入り禁止・関与している不動産業者との取引停止などの制裁を受けることになるかもしれません。
その代わりと言ってはなんですが、司法書士として懲戒処分を受けたりするリスクは限りなく低くなるとは思います。
実際に取られた方法
先に書いておきますが、私はこの方法を推奨するつもりはありません。
この話を教えてくれた同業者の方も、「こういう失敗をして、やむを得ずこういう方法を取った」という話を聞かせてくれただけです。
もう一度同じようなケースに当たれば、まず残代金の支払いなどを行う前に「売主ご本人がご存命かどうか」を確認することを忘れることはないでしょう。
しかしこの場面では、「全てが終わり登記を出すだけ」という段階になってから、売主ご本人の死亡を知ることになったので、苦肉の策としてこのような手段を選ばれたようです。
- 売買契約書から所有権移転時期の特約を削除してもらう
- 売買契約の日を所有権移転の原因日として、所有権移転登記を申請
つまり事後的にではありますが、売主の代理人と買主にお願いし、売買契約の日に所有権移転があったことにしてもらったわけです。
売買契約の日にはもちろん売主ご本人はご存命だったわけですから、この日に所有権移転があったということであれば、相続登記を経る必要はなさそうです。
また委任は通常、本人の死亡により終了することになっておりますので、ご本人からお預かりしている登記の委任状も無効になるのでは?と思われる方もいるかもしれません。
しかし不動産登記法上、登記の代理権は本人の死亡により消滅しないことになっているため、その点では問題ありません。
第17条 登記の申請をする者の委任による代理人の権限は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。
一 本人の死亡
二 本人である法人の合併による消滅
三 本人である受託者の信託に関する任務の終了
四 法定代理人の死亡又はその代理権の消滅若しくは変更
不動産登記法
委任状の日付なども事後的にご本人の生前の日を記入しているか、捨て印で訂正しているだけでしょうから、その点をどのように捉えるかという問題はありますが……
Twitter上でも何人かの方がご意見を下さいましたが、この方法には色々と問題があります。
ですから私はここでも「推奨するつもりはない」と書きました。真似しないで下さいね?
いかがでしょうか
Twitterで引用リツイートなどでいただいた意見の中には、参考になるもの、興味深いものなど色々ありました。
この記事に加筆をするか、別の記事でそれらをとりあげるかもしれませんが、場合よってはその前に投稿者の方に承諾を得るご連絡をさせていただいてからになると思います。
興味を持って下さった方がいれば、Twitter上から引用リツイートなどを見ていただいたり、こちらの記事へのコメント・Twitter上での返信・お問い合わせページからのご連絡など、お待ちいたしております。
湘南の不動産手続専門家。ショウ先生こと、永田翔でした。
元のツイートだけだと、おそらく同業者の方以外にはほとんど意味がわからない感じになってしまっていると思います。
この記事では、不動産業者の方など、不動産取引に関わる方全般に伝わるよう、少し解説を加えながら書いていきますね。