隣地を所有する方から「屋根や枝が越境している」と言われて驚いた、あるいは「隣人が自分の土地まではみ出して使っている」と気になっている。
そのような土地境界線などに関するトラブル、誰に相談すれば良いのかわからない方も多いですよね。
土地境界のトラブルの一例として、次のようなものがあります。
- 隣地との境界がわからなくなっている(境界標がなくなった・動いてしまった)
- 隣人が主張する境界線と、自分が認識している境界線が異なっている(例えば、一方はブロック塀の端を境界だと言い、もう一方はブロック塀の中心が境界だと言っている場合など)
- 隣人が自分の土地にはみ出してきている(越境)
- 隣人から「あなたは土地の境界線をはみ出している」と指摘を受けた(越境)
この記事を読んでいただければ、土地境界線に関するトラブルについて、誰に相談すれば良いのかがおわかりいただけると思います。
この記事を読んでいただいて、まだわからないことがあるという方は、お気軽にお問い合わせください。
私は司法書士・行政書士・土地家屋調査士・宅地建物取引士の資格を持つ、不動産に関する手続の専門家です。
ショウ先生という名前でこのブログを運営していますが、本名は永田翔と申します。
事務所は神奈川県藤沢市、いわゆる湘南地域にありますが全国どちらでも対応可能です。
実際に北海道や沖縄県にもお客様がいらっしゃいます。
目次
隣地・隣人との境界線がはっきりしていればトラブルを防げる
まず「土地境界のトラブルがない」とはどのような状態かということを考えてみましょう。
そのためには、まず隣地との境界がはっきりしていることが肝心です。
具体的にいうと、境界標などにより「ここが境界である」ということが誰の目から見ても明らかな状態になっているということです。
法務局には地積測量図という、土地の境界線や、それを示す境界標などの位置・種類などが書かれた図面が備え付けられています。
その地積測量図に示された位置に、間違いなく境界標などが入っていれば、境界線に関するトラブルは起こりづらいと言えます。
また万が一トラブルが起こったとしても対応がしやすいはずです。
隣地の所有者との間で、境界の位置について意見が食い違っていても、客観的な資料があれば納得して引き下がっていただけることが多いです。
しかし境界標がなければ、どこが隣地との正確な境目=境界であるかはわかりません。
境界標があったとしても、「本当の境界はあの位置ではないはず」と思っている人がいれば、それはまたトラブルの元となります。
それでも客観的に見て、「ここが境界である」ということが明らかであれば、それ以上文句のつけようがありませんよね?
仮に文句をつけたり裁判を起こしたりしたところで、その言い分が認められることはないでしょう。
ただし法務局に地積測量図の備え付けなどもなく、客観的な資料が存在しない場合は、当事者双方で話し合って解決した方が良いかもしれません。
境界線のトラブルは、土地家屋調査士に相談しよう
境界線を示す境界標や石があっても、素人目にはどこにあるかわかりづらいことも少なくありません。
また、何らかの工事をした業者さんが、境界標を失くしてしまうことがあります。
失くしてはいないとしても、誤って動かしてしまったので、後で適当な位置に戻してしまったというケースもあります。
「杭(境界標)を飛ばしてしまった」なんて言ったりします。
このような場合、境界標があっても本来の境界だった位置に入っているとは限りません。
境界標がなかったり、「本当にこの位置で良いのかが不安」という場合は、土地家屋調査士に相談してみましょう。
法務局に備えられた地積測量図などを元に、境界標の位置を確認してくれます。
境界標がちゃんと正しい位置に入っていれば、「この位置であってますよ」と答えてくれます。
万が一境界標がない・位置が誤っているという場合は、「元々あった位置に境界標を復元しましょう」と提案してくれるはずです。
ただし境界の位置がはっきりしない場合は、隣地の方に立ち会って確認していただいた上で、境界標を新たに設置することになります。
なお地積測量図を法務局で取得したりすることは、一般の方にもできますが、現地を測量するには専用の器械やスキルが必要ですので、専門家である土地家屋調査士に相談をした方が良いでしょう。
図面を見てメジャーなどで計ってみて、お互いが納得できそうであれば、本格的な測量まではしなくても良いかもしれません。
当事者で話し合って解決するのが一番です
境界の位置で揉めるのは、例えば「隣地との境にブロック塀があるが、ブロック塀の中心と端の、どちらが隣地との境界なのかがわからない(または隣地の方と意見が食い違っている)」というようなケースが多いです。
隣地との境に塀がある場合、その中心が境界なのか、端が境界なのかはその土地によって異なります。
そのため地積測量図や境界確認書を元に調査をしないとわかりません。
実際に現地を測量した上で、図面上の数字を追いかけていけば、「おそらくここが本来の境界だろう」という場所を推測できることが多いです。
それでも本来の境界線がはっきりしない場合は、隣地の方との間で、お互いが納得のいく境界の位置を決めていくことになります。
どうしてもお互いに譲らずに決まらない場合などは、裁判所に判断してもらう訴訟・法務局が境界線を決めてくれる筆界確定などという方法もあります。
しかしいずれの方法も費用や時間がかなりかかりますので、お互いにとって得策ではありません。
筆界特定制度は申請に必要な手数料だけ見れば安く感じるかもしれません。
※仮に固定資産評価額2000万円の土地だとして、4000円です。
しかし筆界特定制度を利用するためには、測量費用が別途かかるため、実際には数十万円~100万円以上の費用がかかると思っていた方が良いでしょう。
なるべく話し合いで解決できば、お互いにとってメリットがあると思います。
それに仮に訴訟などで解決できたとしても、お隣さん同士、今後の関係が気まずくなったりするのは嫌ですよね。
ちなみに訴訟をする場合も、弁護士さん自身は測量などできるわけではありません。
そのため弁護士さんに、土地家屋調査士や測量士が協力して、訴訟のための資料集めや調査を行うことが多いと思います。
隣人が自分の土地に越境しているときは、将来的な解決に向けて覚書を作ることが多いです
木の枝などが越境している分には、伐採をお願いすれば良いでしょう。
問題は建物の一部が越境している場合です。
特に屋根やベランダなどが越境してしまっているというケースは意外と多いです。
とはいえ、多少越境されている場合でも、日常生活には支障がないということも多いでしょう。
このような場合、「今はこのままで良いけれど、いずれ建て替えるときには、ちゃんと越境しないように建て替えて下さいね」という内容の覚書を書いていただくことが多いです。
測量は土地売却などの前提として行うことが多いです。
その場合、覚書は司法書士・土地家屋調査士・不動産業者などが作ってくれることが多いと思います。
しかし、建物を建て替える・新築するという場合には、隣地から越境をされていると問題が発生します。
建ぺい率や容積率という言葉を聞いたことはありますか?
実は土地には目いっぱいに建物を建てても良いというわけではありません。
敷地の面積に対して、この建ぺい率や容積率という数字をかけて、「何㎡まで建物を建てても良い」「延べ床面積は何㎡までなら良い」という数字が算出されます。
この際の敷地の面積から、越境されている分は差し引いて計算をしないといけない可能性があります。
そうすると、本来建てられたはずの建物より、小さい建物しか建てられなくなってしまいます。
このような場合は早急に越境されている状態を解決しないといけませんが、建物の一部を取り壊すというのは、そう簡単なことではありません。
場合によっては、逆に隣地の方に越境している部分の土地を買い取ってもらうという選択肢もあります。
この場合は、分筆という土地家屋調査士に依頼する手続の後、所有権移転登記という司法書士に依頼する手続が必要になってきます。
私は土地家屋調査士と司法書士の両方の資格を持っているので、トータルでかかる費用や期間をまとめてご案内することが可能です。
隣人から「越境している」と指摘を受けた場合、まずは事実確認をしましょう
隣地を所有している方から「あなたがうちの土地を越境して使っている」と指摘を受けることがあるかもしれません。
実際に越境してしまっている場合もあれば、隣人の勘違いということも考えられると思います。
このような場合、感情的になるのではなく、まずは事実確認をすることが大切です。
現地を見ても納得がいかない場合は、まずは相手の方に「なぜ越境していると思われたのか」を確認してください。
測量士や土地家屋調査士などの専門家の意見に基づく場合は、まずはその専門家の説明を受けてください。
そうではなく隣人の方の思い込みや、専門家ではない親族・知人のアドバイスに基づくものであれば、まずは専門家に相談してみましょう。
もちろん相手が依頼した専門家を連れてきた場合でも、その説明に納得がいかない場合は、他の専門家の意見を聞いてみることをオススメします。
「専門家は正義の味方ではなく、依頼者の味方」です。
もちろん職業倫理というものがありますから、法律関係のことで嘘をつく土地家屋調査士や司法書士は少数派だとは思います。
それでもできるだけ依頼者のメリットになるように話を持って行ったり、交渉することが少なくないでしょう。
土地家屋調査士や司法書士の方によっては、依頼者のメリットになるようであれば事実と異なることを伝える方もいるかもしれません。
ご不安であれば、ご自身でも専門家に相談をしてみることが大切です。
長年に渡って越境してきた場合は時効取得できる可能性もあります(逆に、長年越境されていると、時効取得される可能性も)
刑事ドラマなどで「公訴時効がきて無罪になりそう」などという設定の作品を見たことがあるかもしれません。
時効というのは「長年に渡ってその状態であったのだから、その事実を保護しましょう」というような趣旨の制度です。
土地に関するトラブルとしては、長年越境して使用していたことで、その土地が越境していた方のものになってしまうということがあります。
要件を満たせば、時効取得できる(またはされてしまいます)。
ご自身が土地を時効取得できそうであれば、その状態を維持する。
相手方に土地を時効取得されそうであれば、それを阻止する。
そのような考え方が必要です。
時効取得の要件は下記の通りです。
- 自分の物だと思って、その土地を占有していたこと(使っていたこと)
- 無理やり土地を使いだしたりしたのではなく、平穏に使用を始めたこと
- 一定期間以上、その土地を使い続けていたこと(最初から「自分の土地だ」と思っていて、それについて「それなら仕方ない」と思える理由があれば10年間、そうでなければ20年間です。)
実際に土地の一部分を時効取得した場合は、まずその部分について分筆と呼ばれる、土地の登記簿を分ける手続を行います。
その次に、その分けた部分について時効を原因とする所有権移転登記を行います。
この分筆登記は土地家屋調査士に依頼する必要があり、所有権移転登記は司法書士に依頼する必要があります。
私は土地家屋調査士と司法書士の両方の資格を持っているので、手続きをワンストップで引き受けることができます。
相手方が手続に協力しない場合、訴訟をすることになります。
要件が揃っていれば裁判所で時効取得が認められて、判決を出してもらえることになると思います。
判決が出てしまえば、手続に協力をしないといっても、権利者(所有権を取得した方)は単独で登記ができてしまいます。
とはいえ証拠が不十分であれば、時効取得ができない可能性もあります。
納得がいかない場合、なんとか裁判で勝てないか、弁護士さんに相談をしてみるのも一つの手ではあります。
一部例外を除くと土地家屋調査士に相談することがオススメ
誰かに相談するのであれば、土地境界線の専門家である土地家屋調査士に相談することをオススメします。
理由についても説明していきますね。
自分で解決できる場合を除くと、土地家屋調査士の関与が必要
まず、土地の境界線とはなんでしょうか?
境界線には「筆界」と「所有権界」と呼ばれているものがありますが、通常はこの2つは一致しています。
「筆界」とは、法務局に備え付けられた登記簿・地図(公図)・地積測量図等の資料によって確認することができる、公的な境界線。
「所有権界」とは、土地を所有されている方が「ここまでがうちの土地」と認識している私的な境界線のことです。
前述のとおり、通常は「筆界」と「所有権界」は一致しています。
「筆界」というのは、通常は法務局に備え付けられた図面などで、調べることができます。
ここからここまでが一筆の土地だということが、図面などで確認できるのです。
※土地は「一筆」「二筆」と数えます。
ご自宅の管轄法務局がわからない方は法務局のWebサイトでご確認ください。
法務局Webサイト:管轄のご案内
この「筆界」と土地所有者の方の認識がずれている場合に、「筆界と所有権界が一致していない」という状態になります。
これはいかにもトラブルの元になりそうですよね?
この法務局に「地積測量図」などの図面や申請書を提出して、土地の面積や位置に関する、変更・修正などの手続を行う専門家。
それが土地家屋調査士という資格なのです。
土地家屋調査士の使命は、不動産の状況を正確に登記記録に反映することによって不動産取引の安全の確保、国民の財産を明確にするといった極めて公共性の高いものです。
日本土地家屋調査士会連合会Webサイト
日本土地家屋調査士会連合会のWebサイトより「土地家屋調査士とは」
例外その1:売買や時効取得が関係する場合は、司法書士の関与も必要
しかし場合によっては、土地家屋調査士だけでは解決できない事例もあります。
具体的には、土地の一部について、売買・贈与・時効取得などを原因として所有権の移転を行う必要がある場合です。
なかなかイメージしづらいと思いますので、この後で具体例を挙げていきますね。
この所有権移転の登記は、土地家屋調査士の専門分野ではありません。
このような権利関係の登記手続きを行う専門家は司法書士です。
土地境界線をはみ出したまま土地を使用し、10年(または20年)以上経った場合は時効取得
取得時効というものがあります。
土地境界線をはみ出して使用したまま「長い期間」がすぎると、その部分がはみ出して使用していた方の所有地となるのです。
「長い期間」を具体的に言うと、はみ出して使用したことにつき善意・無過失であった場合が10年。それ以外の場合は20年です。
善意とは法律用語では「知らなかったこと」を意味します。
つまりここでは、「わざとはみ出したわけではなく、自分の土地だと思い込んではみ出していた。」という感じです。
加えて「無過失」ということは「過失(落ち度)がない」ということですから、そう思いこんでいたことについて、「それならそう思いこむのも無理はない」と思えるような事情があるということです。
時効取得が成立し、相手方もそれを認めている場合は、法務局で手続をした方が良いでしょう。
まずは「分筆登記」という手続を土地家屋調査士が行います。
「分筆登記」は土地を分ける手続ですので、「時効取得の対象となる部分」を分筆するということです。
その後、時効取得の対象となる部分について「所有権移転登記」を行いますが、「所有権移転登記」は土地家屋調査士ではなく司法書士の専門分野なのです。
私は司法書士と土地家屋調査士の両方の資格を持っておりますので、このような案件もワンストップでご相談・ご依頼を受けることができます。
時効は成立しないが、所有権を移転する必要がある場合は、売買または贈与
前述のように、時効が取得する10年または20年の期間が過ぎている場合は、「時効取得」による「所有権移転登記」手続をします。
しかし、時効取得に必要な期間は経っていないが、どうしてもその部分の所有権を移転しないといけないような場合もあります。
このような場合は隣地の方の協力を得た上で、土地の一部を「分筆登記」し、その部分について売買または贈与による「所有権移転登記」を行うことになります。
お金を払う。つまり有償であれば「売買」。ただで譲っていただける場合は「贈与」となります。
土地の一部を譲っていただかないと困るケースの具体例をご紹介します。
例えば建築基準法では、道路に2メートル以上接していない土地には建物が建てられないことになっています。
建物を建て替えるために、土地の間口を測りなおしたところ、「微妙に2メートルに足りない」といったケースは少なくありません。
第43条 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第44条第1項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。
建築基準法
測量機器の技術進歩などにより、昔よりも正確に測れるようになったことなども理由の一つです。
このような場合、そのままでは建物を建てることができません。
そのため、隣地を所有している方から土地の一部を譲っていただいて、間口が2メートル以上になるようにすることもあります。
所有権などの権利関係に変更があった場合の登記手続きは司法書士業務です
上記のように、時効取得・売買・贈与などにより、土地の一部の所有者が変わる際は司法書士の関与が必要となります。
土地家屋調査士だけでは手続ができない場合もあるということですね。
例外その2:当事者での話し合いが困難な場合は、弁護士の関与が必要
土地家屋調査士や司法書士などの専門家のアドバイスを聴き、当事者同士で話し合いができれば、後はそれに基づいて、境界確認書や覚書といった書類を取り交わしたり、登記手続きをするだけです。
しかし、話がまったく通じない相手や、場合によってはそもそも話し合いに応じてくれないという方さえ、中にはいらっしゃいます。
時効取得を例に挙げますと、要件を満たしていたとしても、相手の方が手続に協力をしてくれないことがあります。
そうすると、結局、裁判所に「確かに時効取得の要件を満たしている」ということを認めてもらい、判決を得て登記手続きをするしかありません、
このような場合は、裁判所で訴訟などの手続をするしかありません。
裁判所での手続は時間や弁護士報酬がかかりますし、なるべく当事者間で話し合いができれば良いのですが……
専門家に頼らず、あなたご自身で訴訟手続きなどをすることも、できないわけではありません。
しかし、なるべく不動産問題に詳しい弁護士の先生に依頼されることをオススメいたします。
弁護士のご紹介などを希望される方もお気軽にお問い合わせください。
まとめ
まとめます。
- 土地境界のトラブルに関する専門家は土地家屋調査士
- ただし売買・贈与・交換・時効取得などで権利関係を整理するには、司法書士の関与が必要なことも少なくないので、司法書士・土地家屋調査士の両方がいる事務所に相談・依頼をすることが望ましい
- 訴訟や筆界特定は、時間も費用もかかるので、結果的にお互いにとってデメリットが大きい
- 筆界特定は登記簿に「筆界特定をした」という記録が残る。
見る人が見れば「隣地所有者と話し合いで解決できないぐらいに関係性が悪い」と思われるため、土地の売却時などに価格の評価を下げる要因となることもある。
記事を読んで下さった方で、ご依頼・ご相談・ご質問などあれば、コメント欄・お問い合わせページ・TwitterのDMなどで気軽に連絡くださいね!
湘南の不動産・相続手続の専門家、ショウ先生こと永田翔でした。