会社経営者の方から、「代表者である自分の自宅住所を、登記簿に載せるのをやめたい」「登記簿から住所を特定されるのが不安だ」といったご相談を受けることがあります。
株式会社の登記簿には、代表取締役の氏名だけでなく、自宅の住所まで記録されます。しかも登記簿の内容を確認できる登記事項証明書は、手数料を払えば誰でも取得できるものです。
この住所を、なんとか隠せないかというご相談ですね。
この記事を読めば、会社の登記簿に代表取締役の住所を載せない方法がわかります。
令和6年10月から「代表取締役等住所非表示措置」という制度が始まり、申し出をすることで、住所が市区町村までしか表示されなくなりました。

ただし、場合によっては、すぐに住所が分からなくなるわけではありません。その理由も後ほど説明させていただきます。
私は司法書士・行政書士として開業している永田翔と申します。ショウ先生という名前でこのブログを運営しています。
事務所は神奈川県藤沢市、いわゆる湘南地域にありますが全国どちらでも対応可能です。実際に北海道や沖縄県の会社・法人登記も何度も申請したことがあります。
先にお伝えしておくと、この手続きは単独では申し出ができません。何かの登記と一緒に行う必要があります。
どのような人がこの手続きを使っているの?
当事務所にご依頼をいただいた方の動機を、いくつかご紹介します。
事業承継を控えている方
「自分の住所が載っていることには、もう慣れました。ただ、後継者として娘と娘婿を代表取締役に入れようと思っていて、娘たちの住所まで載ることには、抵抗がありますね」
代表取締役を増やす、あるいは交代するとき、その方の住所も登記されます。自分ひとりの問題ではなくなるという場面ですね。
女性で一人暮らしの方
これはそのままの理由です。会社の登記簿を取得すれば、自宅がどこか分かってしまう。女性の一人暮らしなので、男性のお客様などに自宅が知られてしまうと不安だ、というご相談でした。
過去の人間関係に不安がある方
これは不動産登記に関するご相談でしたが、「別れた元配偶者に住所を知られたくない」「過去に付き合いがあった、良くない知人に住所を知られたくない」というご相談を受けたことがあります。
会社の代表者の方にも、同じような不安はありそうです。

こんな話も聞いたことがあります。ある会社の代表の方が、登記簿から住所を特定されて、保険の営業マンにアポなしで自宅を訪問されたそうです。夜11時頃に帰宅したら、家の前でずっと待っていたとか。
ちなみにその方は積極的な営業マンが好きな方だったので、意気投合して契約してあげたそうです(笑)。しかし、普通は迷惑に感じる方のほうが多いですよね。
この記事でわかること
- そもそも、なぜ代表者の自宅住所が登記簿に載るの?
- 住所非表示措置を使うと、どこまで隠れるの?
- 理由を説明しないといけないの?
- 何を準備すればいいの?
- 申し出はいつでもできるの?
- 自宅兼本店の会社の場合、本店はどこまで登記すればいいの?
- 隠した後に、困ることはないの?
- 印鑑証明書には住所が載るの?
- いちばん見落とされやすい落とし穴は?
- 申し出をすれば、すぐに隠れるの?
- 費用はどれぐらいかかるの?
- 時間はどれぐらいかかるの?
そもそも、なぜ代表者の自宅住所が登記簿に載るの?
株式会社の登記簿(登記事項証明書)には、代表取締役の氏名と住所が記録されます。これは会社法で定められた登記事項です。
理由は、取引の相手方を保護するためです。会社と取引をする側からすれば、その会社の代表者が誰で、どこに住んでいるのかが分からなければ、いざというときに責任を追及できません。
つまり、取引の安全のために公開されているわけですね。
ただ、その結果として、自宅で事業をしていない方でも自宅住所が公開されることになります。誰でも取得できる制度ですから、住所を知られたくない方は困ってしまいますよね。

登記簿を取得するのに、理由を説明する必要はありません。手数料を払えば、誰でも取れます。
住所非表示措置を使うと、どこまで隠れるの?
令和6年10月1日から始まった制度で、正式には「代表取締役等住所非表示措置」といいます。
申し出をすると、登記事項証明書に記載される代表取締役等の住所が、最小行政区画までの表示になります。
たとえば私の事務所の住所を例にすると、こうなります。
措置を使わない場合 藤沢市湘南台二丁目9番地の2 ヴェルセ湘南602号室
措置を使った場合 藤沢市
このように、市区町村までしか表示されません。番地も、建物名も、部屋番号も出なくなります。
対象になるのは、株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人です。取締役や監査役など、代表権のない役員は対象外です。

なお、登記簿に記録されている住所そのものが消えるわけではありません。登記簿の「表示」だけが行政区画までになるという制度です。ここが後で効いてくるので、覚えておいてください。
理由を説明しないといけないの?
必要ありません。
この点を誤解されている方が意外に多いと感じました。「DVやストーカーの被害に遭っているような、よほどの事情がないと認められないのでは」と思われている方が多いのです(不動産登記の場合はそうですよね)。
しかしこの制度では、住所を知られたくない理由について、書くことすら求められません。

実際に「女性の一人暮らしなので」という漠然とした不安が理由の方も、問題なく手続きができました。そもそも、その理由を法務局に伝えてもいません。
「そんな理由で申し出ていいのだろうか」と迷って、相談されない方がいらっしゃるのではないかと思います。理由は問われませんので、気になる方はこの手続きを検討されてはいかがでしょうか。
何を準備すればいいの?
理由の説明は不要ですが、別のものが必要になります。
それが「会社が、本当にその本店所在地に存在しているか」の証明です。
代表者の住所を隠すということは、取引の相手方から見れば、会社を追いかける手がかりが減るということです。そこで、せめて会社の実体はあることを確認しよう、という趣旨だと理解しています。
上場会社でない株式会社の場合、次のどちらかが必要です。
① 司法書士など資格者代理人が、本店の実在性を確認したことを証する書面
登記を受任した司法書士が実際に本店所在地に行き、確認した日時と方法を記載して職印を押した書面です。
② 配達証明郵便で会社宛てに郵便物が届いたことを証する書面
具体的には、配達証明書と郵便物受領証の両方が必要です。しかも、そこに記載された商号と本店所在場所が、登記記録と一致している必要があります。

ご自身で手続きをされる場合は、②の方法になります。会社宛てに配達証明付きの郵便を出して、配達されたことを証明する書類を揃えるわけですね。
司法書士にご依頼いただく場合は①で足りますので、郵便のやりとりが不要になり、その分だけ早く進みます。
なお、不動産の賃貸借契約書は使えません。日本司法書士会連合会は、賃貸借契約書は物理的な実在性を証明するものではないため、実在性を証する書面としては採用できないという見解を示しています。
このほか、代表取締役等の氏名・住所が記載された住民票の写しなども必要になります。
いつでも申し出できるの?
いつでもできるわけではありません。
この申し出は、代表取締役等の住所が登記されることになる登記の申請と同時にする場合に限られます。
具体的には、次のような登記です。
- 会社の設立登記
- 代表取締役等の就任の登記
- 代表取締役等の住所移転による変更の登記
- 代表取締役等の重任の登記
- 管轄外への本店移転登記(新本店所在地での登記)
つまり「今は特に登記することがないけれど、住所だけ隠したい」というご希望には、そのままではお応えできません。

よくあるのは、役員の任期が来て重任の登記をするタイミングです。どうせ登記をするなら、そのときに一緒に申し出てしまうのが効率的ですね。
もし直近で予定されている登記がない場合は、次に登記が必要になるタイミングを見計らって、あわせて手続きすることになります。
ただ、あえて一度退任をして、すぐに同じ方を選任する、重任の登記をすれば、それとあわせて手続きをすることもできます。
自宅兼本店の会社の場合、本店はどこまで登記すればいいの?
これは意外に知られていない話です。
会社の本店を登記するとき、どこまで詳しく記載するかは、ある程度自由に選べます。
私の事務所の住所を例にすると、次の3通りが考えられます。
1. 藤沢市湘南台二丁目9番地の2 2. 藤沢市湘南台二丁目9番地の2 ヴェルセ湘南 3. 藤沢市湘南台二丁目9番地の2 ヴェルセ湘南602号室
3のように部屋番号まで登記すれば、当然ながら部屋番号まで公開されます。1や2であれば、そこまでは分かりません。
戸建ての場合は、選択の余地なく1になりますが、マンションやアパートなどであれば、部屋番号までは知られずにすみます。
ただし、簡潔に書けば書くほど、後で手間になる場面もあります。
1や2の書き方をされている方から、「その場所が本店であることの資料として、公共料金の支払いが分かる書類などの提出を求められた」というお話を聞いたことがあります。金融機関や取引先とのやりとりの場面ですね。

どちらが良いという話ではなく、公開される情報の量と、後の手間は、だいたいトレードオフになるということです。設立のときに、少し考えておくとよいと思います。
隠した後に、困ることはないの?
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
住所非表示措置には、確実にデメリットがあります。しかも、法務省自身がそれを明記しています。
法務省のウェブサイトには、この措置が講じられた場合、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができなくなるため、金融機関から融資を受けるにあたって不都合が生じたり、不動産取引等にあたって必要な書類が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定される、という趣旨の注意書きがあります。そのうえで、申し出の前に慎重かつ十分な検討をするよう求めています。
分かりやすく言えば、こういうことです。
これまで:登記事項証明書を出せば、「この会社の代表者は、この住所の、この人です」と証明できた
これから:登記事項証明書には市区町村までしか出ていないので、それだけでは証明できない
融資の審査、口座の開設、不動産の取引。こうした場面では、相手方が「目の前にいる人が、本当にこの会社の代表者なのか」を確認します。その確認が、登記事項証明書一枚では済まなくなるのです。
結果として、提出を求められる書類が増えます。
印鑑証明書には住所が載るの?
「登記事項証明書に住所が出ないなら、会社の印鑑証明書で証明できるのでは」とお考えになる方がいらっしゃいます。私も最初にそう思いました。
しかし、会社の印鑑証明書にも、代表者の住所は記載されません。
住所非表示措置が講じられている場合、印鑑証明書の記載からも住所が除かれます。ですので、印鑑証明書だけで住所の証明をすることはできません。
では、どうするか。
実務上は、書類を組み合わせて対応することになります。
- 代表者個人の運転免許証など、住所の記載がある本人確認書類
- 会社の実印を押した「当社代表者の住所は、下記の免許証記載のとおりで相違ない」旨の証明書
- 会社の印鑑証明書(押された印鑑が会社実印であることの確認用)
この3点があれば、相手方は「押印された印鑑が会社の実印であること」と「その会社が住所を証明していること」を確認できます。

実際には、取引先や金融機関ごとに求められるものが違います。大きな取引を予定されている場合は、事前に相手方に確認しておくと安心です。
いちばん見落とされやすい落とし穴は?
私が実務をしていて、いちばん気をつけるべきだと感じているのが、この点です。
住所が変わったことに、誰も気づけなくなります。
住所非表示措置を使っても、代表取締役の住所変更の登記義務はなくなりません。引っ越しをすれば、2週間以内に変更登記をする必要があります。これを怠ると、過料の対象になり得ます。
問題は、同じ市区町村内で引っ越した場合です。
たとえば藤沢市内で引っ越したとします。登記簿の表示は「藤沢市」のままですから、見た目は何も変わりません。それでも登記義務はあります。
そして、これは司法書士であっても、登記簿に書かれている以上の情報はわかりません。
通常であれば、登記のご依頼をいただいたときに、登記簿の住所と運転免許証等の住所を見比べます。違っていれば「お引っ越しされましたか。それでしたら住所変更の登記が必要ですよ」とお伝えできます。
ところが住所非表示措置が講じられていると、登記簿には市区町村までしか出ていないため、住所変更に気づかない可能性が高くなります。

専門家が見ても気づけない、という状態になるわけですね。ここは制度の設計上、仕方のない部分だと思います。
ですので、この措置を使われている会社については、登記のご依頼をいただくたびに、住所に変更がないかを確認するようにしています。変更がない場合は面倒なやり取りに感じるかもしれませんが、過料のリスクを避けるためとご理解いただければと思います。
もう一点、住所が変わった場合は、改めて申し出が必要です。
住所変更の登記をするときに、あらためて住所非表示措置の申し出をしないと、新しい住所は表示されてしまいます。せっかく隠していたのに、引っ越しをきっかけに公開されてしまう、ということが起こり得ます。
申し出をすれば、すぐに隠れるの?
ここも見落とされやすい点です。
過去に登記された住所は、しばらく残ります。
会社の登記簿を取得するとき、多くの場合は「履歴事項全部証明書」を取得します。この証明書には、現在の登記事項だけでなく、過去の変更履歴も記載されます。
記載される履歴の範囲は、原則として3年前の1月1日以降のものです。
つまり、こういうことが起こります。
たとえば2年前に重任の登記をしていて、そのときに代表取締役の住所が登記されているとします。今回あらためて重任の登記をして、住所非表示措置を申し出たとしましょう。
現在の欄は「藤沢市」だけの表示になります。しかし、2年前の登記は履歴として残っていて、そこには番地まで記録されています。

特に重任の場合は注意が必要です。重任では住所が変わっていませんから、履歴に残っている住所が、そのまま現在の住所ということになります。
住所が変わっていない状態で申し出をされる場合、申し出た直後は、実質的にはまだ隠れていないとお考えください。履歴に記載されなくなる期間が過ぎるのを待つことになります。
一方で、引っ越しにともなう住所変更の登記と同時に申し出をされる場合は、履歴に残るのは前の住所です。現在お住まいの場所は、最初から表示されません。

ですので、引っ越しの予定がある方は、そのタイミングで申し出るのがいちばん効果的ということになりますね。
なお、取引先などが「現在事項全部証明書」を取得した場合は、現在有効な事項だけが記載されますので、過去の履歴は出てきません。ただし、どちらの証明書を取得するかは、取得する側が選べます。
「履歴事項証明書」からも履歴を消す方法について、書いた記事はこちら
いつ申し出るかで、効果が変わります
ここまでの話を整理すると、申し出のタイミングによって効果が変わることが分かります。
① 会社の設立と同時に申し出る場合
いちばん効果が高いのがこの場合です。履歴に住所が一度も記録されませんので、最初から誰にも分かりません。
これから会社を作られる方で、住所を知られたくない事情がある場合は、設立の段階で申し出ておくことを強くおすすめします。
② 引っ越しにともなう住所変更の登記と同時に申し出る場合
履歴に残るのは前の住所です。今お住まいの場所は、最初から表示されません。既存の会社としては、この形がいちばん効果的です。
③ 重任など、住所に変更がない登記と同時に申し出る場合
過去に登記された住所が履歴に残っており、それが現在の住所と同じですので、しばらくは実質的に隠れません。

ただし、③だからといって「やらないほうがいい」わけではありません。履歴から落ちるまでの時間は、申し出をしておかないと進みません。次の機会を待っているうちに、また同じことになります。
それに、③の状態で引っ越しをされた場合、新しい住所は最初から表示されないことになります。
費用はどれぐらいかかるの?
当事務所にご依頼をいただく場合、住所非表示措置の申し出について3万3000円(税込)を頂戴しております。
ただし、先にご説明したとおり、この申し出は単独ではできません。一緒に行う登記の費用が別途かかります。
一緒に行うことが多い登記の費用は、次のとおりです(いずれも実費及び税込)。
| 一緒に行う登記 | 費用の目安 |
|---|---|
| 役員変更(重任) | 4万9000円 |
| 代表取締役の住所変更(資本金1億円以下) | 4万9500円 |
| 代表取締役の就任(資本金1億円以下) | 6万500円 |
| 株式会社の設立 | 29万8120円 |
たとえば役員の重任登記とあわせて申し出をされる場合は、4万9000円 + 3万3000円で、合計8万2000円ということになります。
なお、住所非表示措置の申し出そのものには、登録免許税はかかりません。
時間はどれぐらいかかるの?
書類の作成については、お急ぎであれば即日対応することも可能です。
申請してから登記が完了するまでの期間は、一緒に行う登記の種類と、管轄の法務局によって変わります。おおむね1週間から1か月程度とお考えください。

最近は法務局の処理に時間がかかることも多く、都内などでは1か月を超えることも珍しくありません。お急ぎの事情がある場合は、早めにご相談いただけると助かります。
まとめ
まとめます。
- 令和6年10月から、代表取締役等の住所を市区町村までの表示にできるようになった
- 理由の説明も、疎明資料も不要。「一人暮らしなので」といった理由でも問題ない
- ただし単独では申し出できず、設立・就任・重任・住所変更などの登記と同時に行う必要がある
- 準備が必要なのは「会社が本店に実在すること」の証明。司法書士に依頼すれば書面1枚で足りる
- 隠した後は、登記事項証明書で住所を証明できなくなるため、融資や不動産取引で必要書類が増える
- 会社の印鑑証明書にも住所は載らないので、免許証などと組み合わせて対応する
- 同じ市区町村内で引っ越しても登記簿の見た目が変わらないため、登記漏れに気づきにくい。過料の対象になり得るので、定期的な確認を
- 住所が変わったら、改めて申し出をしないと新しい住所が表示される
- 履歴事項全部証明書には3年前の1月1日以降の変更履歴が載るため、過去に登記された住所はしばらく残る
- 設立と同時に申し出れば履歴に一度も載らないので最も効果が高い。既存の会社なら引っ越しのタイミングが有利
- 当事務所の費用は、申し出について3万3000円(税込)。別途、一緒に行う登記の費用がかかる
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ショウ先生こと永田翔でした。