会社「ある人物が当社の役員だった履歴を消したい」、「私があの会社の役員だった履歴を消してほしい」といったご相談を受けることがあります。
役員変更などの登記を行うと、変更した部分に下線が引かれた上で「〇年〇月〇日退任」「〇年〇月〇日解任」などの記録がされます。
しかし下線が引かれてはいるものの、過去に誰が役員であったかなどの記録は、いつまでも残ってしまいます。
この記録をなんとか消せないかというご相談ですね。
この記事を読めば、会社の登記簿謄本から履歴を消す方法がわかります。
実際には完全に調べる方法がなくなるわけではありません。
しかし普通に登記簿謄本(登記事項証明書)を取得しただけでは、履歴がわからなくなります。
私は司法書士・行政書士として開業している永田翔と申します。ショウ先生という名前でこのブログを運営しています。
事務所は神奈川県藤沢市、いわゆる湘南地域にありますが全国どちらでも対応可能です。
実際に北海道や沖縄県の会社・法人登記も何度も申請したことがあります。
結論としては管轄外への本店移転登記を利用します。
先にお伝えしておきますが、この登記は司法書士の方によっては依頼を受けていただけない可能性もあろうかと思います(その理由も後ほど説明させていただきます)。
一度管轄外に本店移転をした上で、元の本店に再度移転する登記を行います。
これにより新しく登記簿が作成されることになります。
新しく登記簿が作成される際には、現時点でも効力が残っている登記だけが記載されます。
つまり過去の役員など、本店移転前に下線が引かれていた事項については、新しい登記簿には記載されません。
- そもそも、なぜ過去の役員までバレてしまうの?
- 管轄外への本店移転登記とは?
- 管轄外への本店移転登記をするとどうなるの?
- なぜわかりづらくなるだけで、絶対にわからないわけではないの?
- なぜ司法書士に、この手続の依頼を断られる可能性があるの?
- 費用はどれぐらいかかるの?
- 何を準備すればいいの?
- 費用はどれぐらいかかるの?
- 時間はどれぐらいかかるの?
- 何を用意すればいいの?
本店移転登記を利用して、過去の登記履歴をわかりづらくなる方法について、もう少し具体的に説明していきます。
目次
過去の役員までバレるのはなぜ?バレないようにするにはどうすればいい?
過去の役員までバレるのはなぜ?
会社に関して、本店(住所)・商号・役員などを記録した証明書は法務局というところで取得することができます。
この証明書は「履歴事項全部証明書」と言いますが、会社の「謄本」などと呼ぶ方も多いです。
役員などの変更登記を行うと、会社の謄本には、変更した部分に下線が引かれた上で「〇年〇月〇日退任」「〇年〇月〇日解任」などの記録がされます。
しかし抹消・変更されたという意味の下線が引かれてはいるものの、過去に誰が役員であったかなどの記録は、見られる状態です。
しかもこの記録は、基本的にはいつまでも残ってしまいます。
バレないようにするためにはどうすればいい?
法務局で「”現在”事項全部証明書」というものを取れば、そこには記載されません。
「”履歴”事項」ではなく「”現在”事項」であれば、現在有効な内容だけが記載されます。
つまり、過去の役員等については記載がされないということです。
「自分で証明書を取得して、それを提出する」という場合には、「”現在”事項全部証明書」を取得することで、見せたくない過去の履歴については記載がない証明書を取得できます。
しかし取引先などが「履歴事項全部証明書」を取得すれば、やはりそこには載ってしまいます。
また「履歴事項全部証明書」を提出してください。という指定をされる場合もあります。
この場合は、やはり過去の役員等についても、バレてしまうということになります。
管轄外への本店移転登記とは
本店移転登記とは
会社の住所のことを「本店」と言います。
この本店を変更する手続を「本店移転登記」と呼びます。
管轄法務局とは
登記手続をするのは法務局というところです。ご自身で手続をされる場合は、以下の登記管轄一覧から、管轄の法務局をご確認ください。
登記管轄一覧表
本店所在地の都道府県を選択していただき、「商業・法人登記管轄区域」から管轄の法務局をご確認ください。
上記の、登記管轄一覧表をご覧いただくとわかりますが、法務局は市区町村ごとに設けられているわけではありません。
一つの法務局が複数の市区町村を管轄していることがほとんどです。
例えば、私の事務所がある神奈川県では、「横浜市・川崎市」が「横浜地方法務局本局」。
「県内のそれ以外の市町村」は「横浜地方法務局湘南支局」が管轄となります。
管轄が変わる場合の具体例
管轄が変わるような本店移転をすることを、「管轄外への本店移転登記」と言います。
例えば、横浜市から川崎市に本店移転をする場合は、同じ「横浜地方法務局本局」の管轄内ですので、管轄”内”の本店移転登記となります。
これに対して、横浜市から藤沢市に本店移転をする場合は、管轄が「横浜地方法務局本局」から「横浜地方法務局湘南支局」に変わるので、管轄”外”への本店移転登記となります。
個人の方が他の市区町村に引っ越しをするとき、転出届・転入届を出しますね。
それの法人版だと思ってください。
管轄外への本店移転登記をするとどうなるの?
登記前の管轄法務局にあった登記簿は閉鎖されます。
そして、登記後の管轄法務局で、新しく登記簿が作られることになります。
この際、現在も効力がある登記記録だけが、記載されます。
つまり、すでに退任している役員などについては、一切記載がされないのです。
この時点で、過去に誰が役員だったかは、わからなくなります。
ただ実際に本店移転を行いたいわけではない場合、このままでは困ってしまいますね。
そこで、もう一度元の本店所在地への、本店移転登記を行うのです。
これで、現在有効な登記事項だけが記載された、登記簿が元の管轄法務局に作られることになります。
なぜわかりづらくなるだけで、絶対にわからないわけではないの?
新しく作られた登記簿には、過去の役員などについての記載はされていません。
それではなぜ、過去の役員などについて「絶対にわからないわけではない」のでしょうか。
それは、登記簿の履歴を追って調べる方法があるからです。
管轄外から本店移転をしてきた会社の登記簿には、「令和〇年〇月〇日神奈川県××市××町1-2-3より本店移転」といった記載がされます。
この記載を元に、過去の管轄法務局で閉鎖された登記記録を、閲覧することができるのです。
つまり本店A(当初)→本店B→本店A(完了後)という風に管轄外本店移転登記を行った場合、本店A(完了後)の登記簿には、本店Bから本店してきた事実が記載されています。
この本店Bでの閉鎖された登記簿を取得することはできます。
それを取得しても、過去の役員についての記録は確認できませんが、本店A(当初)から移転してきたという記録は残っています。
そこで本店A(当初)での閉鎖された登記簿を取得すると、退任・解任などで下線が引かれた、過去の取締役についても確認できてしまうのです。
つまり取引先の過去の情報について知りたい方は、この方法で閉鎖登記簿を追っていけば、本店移転前の情報についても調べることができるわけです。
なぜ司法書士に、この手続の依頼を断られる可能性があるの?
実際にこの手続を行う場合、「実際には本店を移転しているわけではない」「しかし本店移転登記をしたい」という状況ですよね。
それを「虚偽の本店移転だ」という風に考えられると、「受任すべきではない案件」と判断をされるかもしれません。
実際には登記簿上の本店と、事業の中心である本社をわけている会社もありますし、個人的には「会社が然るべき方法で”ここが本店”と決めたのであれば、それで問題ないのでは?」と考えております。
とは言っても、使用する権利がない建物などを、勝手に本店にしようとしている場合は、さすがにご依頼をお断りすると思います(笑)。
個人の方で、「皇居」「大阪城」「ディズニーランド」のような場所を本籍地にしている方が実際にいるそうです。
法人の場合でも、このような場所を本店にすることは、手続上は可能です。
なお実際にこの手続をする場合に、本店移転をする住所ですが、関係者(取締役のどなたかや、代表者のご両親など)のご自宅などにするケースが多いのではないかと思います。
倉庫や店舗など、本店以外にも事業に使っている建物があれば、そちらの住所を使っても良いかもしれません。
費用はどれぐらいかかるの?
当事務所にご依頼をいただく場合、28万4000円(実費込)の費用を頂戴しております。
このうち12万5000円程度が実費となります。
管轄外本店移転の登記は、法務局に納める登録免許税が6万円かかります。
これを2回行うので登録免許税だけで12万円かかります。
参考前に下記に費用の内訳を記載しておきますね。
報酬以外は、仮にご自身でやり方を調べて登記申請される場合でもかかる費用です。
- 登録免許税:12万円
- 申請前に登記記録を確認する費用:361円
- 申請後に登記事項証明書等を取得する費用:1050円
- 郵券交通費等:約5000円
- 報酬:16万円+消費税
なお管轄外本店移転は、申請書に記載する分量なども多く、法人登記の中では比較的申請書への記載量も多くなります。
時間はどれぐらいかかるの?
書類の作成については、お急ぎであれば即日対応することも可能です。
ただし申請してから登記が完了するまでには1~2ヶ月ほどかかります。
管轄外本店移転の登記は、旧管轄と新管轄の両方の法務局で、処理を待つ期間があります。
それぞれ1~2週間ほどかかります。
そして、これを2回申請するというのが、この記事で紹介している手続の方法です。
そのため、合計で4~8週間ほどかかることになります。
ただし事情を伝えれば、法務局で優先的に処理をしてもらえることなどもあります。
法務局の方も、親切な方・厳しい方など、色々な方がいらっしゃいます。
こちらで担当者を選ぶことなどはできないので、どのような方が担当になるのかという、運しだいなところもあります(笑)。
何を用意すればいいの?
議事録などの書類を作成し、印鑑を押して提出するのみです。
何か役所などで取得して、用意するべき書類はありません。
印鑑証明書や、本店にする建物についての書類など、一切不要です。
まとめ
まとめます。
- 管轄外本店移転の登記を利用して、過去の役員などをわかりづらくすることができる。
- ただし司法書士によっては、この手続を断られるかもしれない。
- 当事務所にご依頼いただくと費用は28万4000円(このうち約12万5000円が実費)
- 登記申請から完了までに1~2ヶ月ほどかかる
記事を読んで下さった方で、ご依頼・ご相談・ご質問などあれば、コメント欄・お問い合わせページ・TwitterのDMなどで気軽に連絡くださいね!
ショウ先生こと永田翔でした。
なお実は過去の記事で、概要だけ解説しておりました。
今回ようやく、具体的に解説する記事を書かせていただきました!
つまり「過去の履歴をわかりづらくする方法」と言った方が良いかもしれません。