Yahoo!知恵袋について「回答している方は当然、その分野に詳しい方なのだろう」と思いこんでいたりしませんか?
湘南の不動産手続専門家、ショウ先生こと永田翔です。
最終学歴は中卒ですが、司法書士・行政書士・土地家屋調査士・宅建士などの資格を持っております。
この記事を見ていただくと、Yahoo!知恵袋の回答を鵜呑みにするのも、少し問題があるということがわかると思います。
先日、登記や相続など、私が業務として取り扱っていることで、どのようなことにお悩みの方が多いのか、参考にしてみようとYahoo!知恵袋を閲覧していました。
その中で下記の質問と、それに対する回答が気になりました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1467238039?__ysp=55m76KiY
目次
質問の内容は母の相続について、自分達に不利な内容の遺言書があり、その効力を争えないのかというもの
先ほど貼ったURLから全文を読むことができますが、簡単にまとめるとこんな事例です。
- 質問者は5人兄弟
- 母の生前に口約束で「母が亡くなったら財産は半分を長男がもらい、残りの半分を他の4人で均等に分ける。」と兄弟間で話し合っていた。
- 母の死後に長男から母の遺言書を見せられた。そこには「全財産を長男に相続させる。」と書いてあった。
- 長男に「口頭で約束したとおりに分けよう。」といっても、聞く耳を持ってくれない。
- 母は認知症が進んでおり、自分で遺言書が書けたとは思えない。同居していた長男が書かせたのではないか。遺言書の効力を争えないのか。
これに対して何人かの方から回答がついており、ベストアンサーに選ばれていたものを一読してみました。
司法書士・行政書士・土地家屋調査士などの資格を持つ専門家である私としては、失礼ながらこのような印象を持ってしまいました。
どういう方が回答されているのだろう。専門家ではなさそうだが、こんな回答で大丈夫なのだろうか?
Yahoo!知恵袋で、遺言書の効力を争えないのかという質問に対してなされていた回答とは
以下、必要最小限と思われる範囲で引用させていただきます。
※問題あれば引用文を削除します。その場合は該当ページへのリンクのみ記載いたします。
おっしゃるように遺留分です。
それまで無視して我が物にすることは許されません。
ですから抵抗されたらいいのです。不動産の相続は登記できなければ意味があ
りません。登記するには相続人の印鑑証明証と戸籍謄本がいります。又実印も
必要です。それがそろわなければ誰のものにもなりません。協力がなければ全く
前にすすみません
Yahoo!知恵袋
さてこの回答、どこがおかしいのでしょうか?
遺言書がある場合、相続登記の必要書類はこうなります!
回答では「協力がなければ全く前にすすみません」とありますが、まずこれが間違っています!
遺言書がある場合、仮に遺留分を侵害していたとしても、他の相続人の協力なくして相続による所有権移転登記ができてしまいます。
相続人全員の印鑑証明書や戸籍が必要になるのは、遺言書がない場合の相続登記です。
遺言書がある場合の相続登記の必要書類(添付書類は)以下の通りです。
- 遺言書(自筆証書遺言であれば家庭裁判所での検認を受けたもの。公正証書遺言であればそのまま使えます。)
- 戸籍(被相続人、この場合は母のもの。相続人であれば誰でも取得できますので、もちろん長男も取得できます。)
- 戸籍(相続人、この場合は長男のもの。)
- 住民票or戸籍附票(相続人、この場合は長男のもの。)
つまり遺言書がある場合、相続登記をするにあたっては、他の相続人の協力など必要ないのです。
ただし、もちろん遺留分を侵害されているというのであれば、それを裁判などで主張することはできます。
裁判所の判決などで遺留分を認められた場合、あるいは相手方(この場合は長男)が裁判外で遺留分の侵害を認めた場合、遺留分減殺を原因として所有権一部移転の登記をすることなどはできます
なお本件は2011年にされた質問であり、2019年7月1日の改正民法は適用されないものとして記事を書いております。
2019年7月1日以降に発生した相続については、旧民法における遺留分減殺請求はできず、それにともなう所有権(一部)移転の登記をすることはできません。
それに代えて、「遺留分侵害額請求」という方法で、お金の支払いを求めることができます。
相手方にお金の支払い能力がない場合は、不動産を差し押さえたり、相手方との話し合いにより代物弁済による所有権(一部)移転登記を行うことなどができるはずですが、「遺留分減殺」を原因とする登記をすることはできません。
※Twitter上で表示メンさんよりいただいたご指摘を機会に、令和1年の改正民法後の場合の話を加筆いたしました。表示メンさんありがとうございました。また当初の記事が説明不足で申し訳ございませんでした。
これだけではありません、続いて回答のこちらの部分にも疑問がわきます。
公正証書遺言
公的なものといっておられるのは公正証書遺言だからです。これは本人が証言したことを
公証役場で聞き書きされたものです。ですから精神状態を云々と争うことは難しいです。
Yahoo!知恵袋
これについても、相続を得意とする弁護士の先生から聞いた話とは、大きく異なります。
以下は司法書士会が主催する研修会で、相続案件を多数手がけておられる弁護士の先生から聞いたお話です。
公正証書遺言であっても、その効力を争われることはあり得るらしく、その場合作成に関与された公証人の先生が証人として呼ばれるそうです。
公証人の先生は元裁判官・元検事などの方が多いこともあってか、ご自身が作成に関与された際、「実は認知症だったかもしれない。」という印象を持たれていれば、それを正直に裁判所で証言してくださるそうです。
そうなれば、やはり公正証書遺言であったとしても、無効な遺言書として効力を否定されることになります。
つまり遺言書がない相続として、相続人全員で遺産分割の協議をするほかなくなるわけですね。
なお私は司法書士であり、当事者間で話し合いがつかない相続案件などは弁護士の先生にご紹介させていただいております。上記の内容についても、もし「そうじゃないよ」という弁護士の先生などいらっしゃいましたら、ご教授いただけましたら幸いです。
いかがだったでしょうか
もちろん回答者の中には、正確な知識を持った方や、士業などの専門家の方もいらっしゃるとは思います。
しかしそうではないことも少なくないと思いますので、こういった質問サイトとも上手に付き合っていく必要がありますね。
うそはうそであると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい
ひろゆき(西村博之)氏
という言葉もあります。掲示板含めインターネットなどの情報源は上手く利用していきましょう。
お問い合わせ・ご質問などは
コメント欄・お問い合わせページ・Twitterなどなどお気軽にどうぞ。
すべてに回答できるかはわかりませんが、面白いご質問などいただいた場合は、記事にさせていただくかもしれません。
湘南の不動作手続専門家。司法書士・行政書士・土地家屋調査士・宅建士の永田翔(ナガタショウ)でした。
2011年7月24日の投稿と、これを書いている2022年3月22日から10年以上前の投稿です。閲覧数が21万6837件あり、ベストアンサーとなっている回答には31人の方がナイス!をつけていました。