「認知症になると家が売れない」「認知症になると財産が凍結される」そんな話を聞いたことはありませんか?
なぜ認知症になると家が売れないのでしょうか?
認知症になっても売却したり、名義を変える方法はないのでしょうか?
- 親の介護費用にあてるため、認知症になった親の自宅を売却したい。
- 親が施設に入って、実家は空き家になってしまったので売却したい。
- 家の所有者であるお父さんが認知症になってしまったが、お母さんのために自宅をバリアフリー化するリフォームがしたい
このようなお悩み・ご相談を聴くことは少なくありません。
この記事を読めば、認知症の方でも家を売るなどの処分することができる方法がわかります。
いくつかの方法が考えられるので、それぞれメリットやデメリットを比較しながら説明していきますね!
私は司法書士・行政書士・土地家屋調査士・宅地建物取引士の資格を持つ、不動産手続の専門家です。
ショウ先生という名前でこのブログを運営していますが、本名は永田翔と申します。
事務所は神奈川県藤沢市、いわゆる湘南地域にありますが全国どちらでも対応可能です。
実際に北海道や沖縄県にも登記の申請をしたことがあります。
不動産のことはぜひ私にご相談ください。
目次
なぜ認知症になると、家が売れないのか?
認知症の方は、その症状の程度にもよりますが、意思能力がないものとされています。
そして意思能力がない方がした契約(法律行為)は無効なものとなります。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
民法第3条の2
またWikipediaでは、意思能力という言葉は次のように説明されています。
意思能力(いしのうりょく)とは、意思表示などの法律上の判断において自己の行為の結果を判断することができる能力(精神状態・精神能力)
Wikipedia
医師からの診断書などがない場合、意思能力があるかないかという点については、契約の相手方や、手続に関与する方が判断します。
※判断が難しい場合、「医師の診断書を提出してほしい」という話になることもありえます。
例えば預貯金に関する手続であれば、銀行の窓口の方が判断されると思います。
土地や建物などの不動産の売買に関しては、買主・仲介業者・登記を担当する司法書士などから、「認知症の方は有効に売買ができないんですよ」と言われる可能性があります。
特に司法書士から「登記手続を引き受けることができない」と難色を示されるケースが多いと思います。
通常、不動産の売買においては、残金決済時に司法書士が立ち会います。
そして立ち会った司法書士が書類を確認し、「登記に必要な書類は揃っているので、売買代金や鍵のやり取りをしていただいても大丈夫ですよ」というと、売買代金等のやり取りがされることになります。
そのため、司法書士がその立会ができない(登記手続を引き受けることができない)と判断すると、不動産を売ることができなくなるのです。
私も司法書士です。
なお、仮に認知症になる前に書いてもらった委任状などがあったとしても、司法書士としてはご本人の意思能力を確認せざるを得ません。
ここからは、そのような状況では、どのような手段があるのかを見ていきましょう。
他の不動産業者・司法書士に相談してみる
認知症の程度にもよりますが、ダメ元で他の方に相談してみるというのも一つの方法です。
軽い認知症であれば、感じ方に個人差があるかもしれません。
つまり「認知症のようなので契約や手続はできない」という方と、「これぐらい返事ができていれば大丈夫です」という方の両方がいても不思議ではありません。
重度の認知症というわけでなければ、まずは試しに他の方に相談をしてみるというのも一つの方法です。
メリット
若干の手間はかかりますし、他の方に相談しても、やっぱり売買はできないと言われる可能性もあります。
しかし相談するだけなら特別費用はかからないので、まずは他の方にも相談してみて、それでもダメなら他の方法を考えるというのが良いのではないかと思います。
※ただしこちらから出向くのではなく、ご自宅などに司法書士を呼ぶ場合、出張日当を請求されることが多いと思います。
デメリット
例えばご兄弟がいて、その方の了承を得ていない場合などにはトラブルになるかもしれません。
「親父は認知症だったのに、家を売ったなんておかしい。お前が勝手にやったんだろ!」
などと責任を追及される可能性もあります。
やはり少しでも認知症らしい様子が見える場合、リスクは伴います。
成年後見制度を利用して、認知症の親の家を売る。
成年後見制度というのは、家庭裁判所に認知症の方の代理人を選んでもらうという制度です。
メリット
正攻法と言える方法なので、特に法的なリスクを負うことなく、認知症の親御さん名義の不動産を売却できると思います。
デメリット
費用と時間がかかります。
また、家庭裁判所が選んだ代理人である、成年後見人の対応に不満を持つ方も少なくないようです。
もう少し細かく説明していきますね。
成年後見制度を利用するのにかかる費用
成年後見制度を利用するためには、家庭裁判所に申立をする必要があります。
この申立てを専門家(弁護士または司法書士です)に依頼する場合、だいたい10万円程度かかります。
また成年後見人になった場合、年に一度、家庭裁判所に報告書を出すなどの手間がかかります。
家庭裁判所が弁護士などの専門家を成年後見人として選任した場合は、そのような手間はかかりません。
ただしその専門家に支払う報酬を負担しなくてはいけません。
財産の総額により、年に24万円から60万円程度の報酬が必要となります。
これは成年後見人となった方が、家庭裁判所の許可を得た上で、管理している預貯金から報酬相当額を引き出すという形で支払われます。
成年後見制度を利用するのにかかる時間
申立てから売却まで、だいたい2ヶ月から4か月程度かかると、思っておいた方が良いと思います。
依頼した専門家の技量や、家庭裁判所の処理速度にもよりますし、スムーズにいけばもう少し早まる可能性もあります。
かかる日数の、具体的な内訳は下記のとおりです。
- 必要書類の収集および申立書の作成:2~4週間程度
- 家庭裁判所の予約:2~4週間程度
- 家庭裁判所が成年後見人を選任するまで:2~4週間程度
- 成年後見人選任の審判が確定するまで:審判から2週間
- 居住用不動産売却許可申立て:1~2週間程度
※対象となる不動産に、親御さんが一度も住んだことがなければ不要
売却したお金を施設の入居費用に充てたいなどという場合には、この日数がネックになってくるかもしれません。
成年後見人の対応が悪い
必ずしも成年後見人に選ばれた、弁護士・司法書士に問題があるというわけでもないのですが、親族と意見があわないことは少なくないようです。
法律上・立場上どうしても仕方ないことも多いのですが、実際に成年後見人が選任されている方などでお困りの方は、よろしければご相談ください。
任意後見制度を利用する。
こちらは実際に認知症になる前でないと利用することが難しいですが、任意後見という制度もあります。
通常の成年後見制度と違うのは、自分が選んだ方が成年後見人になってくれるところです。
家庭裁判所が成年後見人を選任するわけではありません。
その代わり、成年後見監督人と呼ばれる方が必ず選任され、その方の報酬を負担しなくてはいけなくなります。
民事信託を利用して、認知症の親の不動産を売却する。
民事信託・家族信託などといった言葉を聴いたことがあるかもしれません。
これは財産を「信じて託す」と書くように、財産をどなたかに預ける手続です。
売却・建て替え・リフォームなど、契約書の中に定めれば色々なことができます。
メリット
成年後見制度と比べると、次のようなメリットがあります。
- 自分が選んだ方が受託者(代理人のようなもの)になってくれる
※成年後見人は家庭裁判所が選任する - 契約書の中で定めさえすれば、色々なことができる。
※成年後見人はご本人のためになることしかできません。
例えば相続対策などはできません。それは残された方のメリットになることであり、認知症になったご本人のためになることではない。と判断されるのです。 - 認知症になった場合、すぐに売却などの行為ができる。
※成年後見制度を利用して家を売るには、何か月かかかることもあります。
詳しくは前述の成年後見制度の欄をご参照ください。
デメリット
認知症になってしまった後にこの制度を利用することは難しいです。
また比較的高額な費用がかかります。これは専門家が行う検討や作業の量が多くなりがちなためです。
少なくとも30万円程度から、場合によっては100万円を超えるような費用がかかります。
ただし成年後見制度を利用する場合も、年間24~60万円程度の報酬がかかりますし、認知症になった方がなくなるまで、この報酬は基本的には毎年かかり続けます。
そう考えると、民事信託を利用することが、必ずしも高くつくとはいえません。
諦める=認知症になった方が亡くなってから売却をする
売却をしなくても、施設の入居費用などもなんとかなる場合、諦めるという方も少なくありません。
メリット
何もしないので、手間も費用もかかりませんね。
デメリット
ご実家が空き家になってしまっている場合などは、空き家を放置することによるリスクがあるかもしれません。
勝手に知らない人が入って使われていた。などという話を聞いたこともあります。
建物が老朽化している場合、倒壊などのリスクが生じることもあります。
また固定資産税などについては、所有者がご存命の間、支払い続けなくてはいけませんね。
自分で認知症の親の土地・建物の名義変更をする
決してオススメはしませんが、書類を揃えて自分で名義変更をしてしまうという話も聞いたことがあります。
法務局ではご本人(認知症になっている親御さん)を窓口に呼び出したりすることはありません。
そのため書類さえ揃っていれば、確かに登記手続は通ってしまうかもしれません。
メリット
自分の名義にした後、売却や建て替えなどをすることができる。
デメリット
親御さんが認知症なのであれば、場合によっては「公正証書原本不実記載罪」などの罪に問われる可能性もあると思います。
認知症の方がした法律行為(売買や贈与など)は無効であるにも関わらず、その無効な行為に基づく登記を行うことは、登記簿に虚偽の記載をすることになってしまいます。
中には「重度の認知症ではないのに、不動産業者や司法書士がわかってくれないだけだ」という方もいるかもしれません。
そのような場合、「自分で調べて登記をする」と判断をしてしまう方も、中にはいらっしゃるようです。
しかしご自身で手続をされる場合は専門家のアドバイスを受けることができないということです。
そのため、法的なリスク・税務上のリスクがあったとしても、それに気づかないまま手続を進めてしまう可能性があります。
取り返しがつかない面倒事になる可能性も少なくありません。
専門家に相談することをオススメいたします。
まとめ
まとめます。
- 「重度の認知症ではないのに、不動産業者や司法書士がおかしいのでは?」と思った場合は、他の不動産業者や司法書士をあたってみる。
→何人かに相談してもダメなら、やはりダメなのだと思ってください。 - やはり認知症で契約や手続ができない場合、成年後見制度の利用を検討してください。
→家庭裁判所に自分で行くか、弁護士または司法書士に相談してください。 - 認知症になる前であれば、信託や生前贈与など様々な選択肢が考えられます。
→物忘れなどが増えてきたら、認知症が進む前に専門家に相談してください。
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湘南の不動産・相続手続の専門家、ショウ先生こと永田翔でした。