NHKのテレビ番組などで「相続登記が義務化される」と見て、「相続登記をしないとどうなる?」と、不安を感じている方もいらっしゃると思います。
多くの方が疑問に持たれるのは、次の3点ではないかと思います。
- いつから、相続登記が義務化されるのか?
- いつまでに、相続登記をしないといけないのか?
- 相続登記をしなかった場合、どのような罰則があるのか?
この記事を読めば、相続登記義務化に関する疑問が解消されます。
なお、私は相続・不動産に関する手続の専門家です。
司法書士・行政書士・土地家屋調査士・宅建士(宅地建物取引士)などの資格を持っております。
ショウ先生という名前でこのブログを運営しています。
本名は永田翔と言い、神奈川県の湘南地域に事務所があります。
全国どちらでも対応可能です。
実際に北海道から沖縄県まで登記の申請をしたことがあります。
不動産登記手続きの専門家は、司法書士と土地家屋調査士です。
この記事では、その両方の資格を持つ私が、相続登記義務化について解説させていただきます。
目次
いつから、相続登記が義務化されるのか?
令和6年4月1日から相続登記が義務化されることになりました。
なお、今回、相続登記が義務化されるにいたった理由についても触れておきます。
所有者が亡くなった後、相続による所有権移転登記(一般の方は「名義を換える」なんて言ったりします)がされないことにより、所有者が不明となっている不動産が増えているという問題があるためです。
その問題を解決するために、この法律が作られたと言われています。
いつまでに、相続登記をしないといけないのか?
最初に簡単に説明します
法律で決まっていることなので、条文を一緒に見ていきましょう!
しかし条文はわかりづらいので、先に結論を書いてしまいます。
条文の解説は興味がある方だけ読んでいただければ大丈夫です。
結論としては、次のようになります。
- 原則として、自分が不動産を相続したと知ったときから3年以内に相続登記を申請しないといけない。
- ただし例外があり、その例外に該当する場合は3年以内に相続登記をしなくても問題なし。
「例外がある場合」と言いますが、どのような場合に例外として、期限内に相続登記をしないことが認められるのでしょうか?
法務省のWebサイトによると「関係者が多くて必要な資料を集めるのが難しい場合など」が例外として認められると書かれています。
※参照:法務省Webサイト
どの程度から「関係者が多い」と言えるのかはわかりません。
参考までに私個人の感想ですが、司法書士として多数の相続登記を経験してきた上で、相続人が10人を超える案件は、「関係者が多い」と感じます。
ここから条文の解説をしていきますが、興味のない方は飛ばして次の項目から読んでください!
条文について
この項目は長くなりますので、興味がある方だけ読んでください。
条文はそのままでは読みづらいことが多いので、できるだけわかりやすいように解説していきますね!
条文の内容
今回は不動産登記法という法律に、新しい条文が追加されます。
追加される条文がこちらです。
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
法務省Webサイト:所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)
条文の解説
それでは、さっそく解説していきます!
「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内」と書かれています。
「自己のために相続の開始があったことを知り」というのは、どういうことでしょうか。
例えばお父さんやお母さんが亡くなったときなら、「自分も相続人になる」というのはなんとなくわかると思います。
このような場合は、相続が発生したとき、つまり被相続人であるお父さんやお母さんが亡くなった日を基準として三年以内ということになると思います。
でも突然、疎遠な親族に相続人になったことを知ることもあるんですよね。
例えば普段は付き合いのない叔父さんが亡くなって、いつの間にか自分が相続人になっていた。などというケースもあります。
念のため、なぜ叔父さんが死んだ場合に、自分が相続人になることがあるのかも簡単に説明しておきます。
子供のいない方が亡くなった場合、兄弟姉妹が相続人になります。
そして兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は、「兄弟姉妹の子供=甥・姪」が相続人となります。
今の例でいうと、子供のいない叔父さんが亡くなり、その前に自分のお父さん(叔父さんからすると兄弟)が亡くなっていた場合、叔父さんの甥・姪である、自分が相続人になるということです。
このようなケースではそもそも自分が相続人になっていると気づかないこともあります。
つまり「自己のために相続の開始があったことを”知らない”」状態ですね。
親戚や専門家から「貴方、この方の相続人になってますよ?」と連絡を受けて、ようやく自分が相続人であることに気づいた場合。
その場合は、連絡を受けたときに「自己のために相続の開始があったことを知った」ということになります。
この場合は、その連絡を受けた時から三年以内に相続登記をしないといけない。というわけですね。
相続登記をしなかった場合、どのような罰則があるのか?
罰則の内容
「10万円以下の過料が課される可能性がある。」とされています。
「過料」というのは「罰金」のようなもので、国にお金を払わなくてはいけません。
その払う金額は、10万円以下の範囲で国が決める。ということです。
なお「過料」と「罰金」の違いですが、「罰金」刑を受けた場合はいわゆる前科がつくことになりますが、「過料」を支払うことになったとしても前科はつきません。
これが大きな違いです。
過料が課されない場合
「過料が課される可能性がある」ということは、課されないこともあるということですよね。
どのような場合に課されないのでしょうか?
司法書士・土地家屋調査士として登記業務に携わっている私が、すぐに思いつくパターンが2つあります。
- 前述の「例外」に該当する場合。
- 実務上はほとんど過料などの制裁がなされず、有名無実化している場合。
こちらも順番に解説をしていきます。
1.前述の「例外」に該当する場合。
先ほど書いたとおり「関係者が多くて必要な資料を集めるのが難しい場合など」は例外として過料が課されないそうです。
2.実務上はほとんど課されず、有名無実化した場合。
相続登記の義務化は、まだ施行されていない法律なので、実務上どのように取り扱われることになるのかが、はっきりとしない部分があります。
他の条文で罰則規定が設けられているものの、実際には罰則が適用される例がほとんどない条文もあります。
具体的な例を挙げますと、建物を新築した際に行う表題登記という手続には「1か月以内に登記をしないと過料に処する」という規定があります。
(過料)第百六十四条 第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条又は第五十八条第六項若しくは第七項の規定による申請をすべき義務がある者がその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する
不動産登記法
しかしながら、これを原因として過料の制裁を受けたという方にお会いしたことがありません。
この相続登記を放置したことによる過料も、同様に有名無実化する可能性はゼロではないと思います。
もちろん当然ながら、しっかり過料の処分がされる可能性も充分にあります。
ですから、これを見て「登記をしなくても大丈夫かも」なんて思わないでくださいね(笑)。
ちなみに……商業・法人登記では過料の処分がしっかりされます。
会社法にも同じく登記を放置したことに対する過料の処分の規定が設けられております。
こちらは実際に「裁判所から過料の通知がきたのですが!」という相談をしばしばいただきます。
だいたい数万円程度の金額であることが多いですが、放置した期間の長さに応じて過料の金額も上がっていくという印象です。
※参考:法務局Webサイト
自分でやる?司法書士に頼む?
時間があって、書類を集めたり作成したりすることが苦手でなければ、自分でやってみるのも良いでしょう。
自分でやれば登録免許税などの実費だけでできます。
その代わり、手間や時間はかかります。
お急ぎでなければ、とりあえず挑戦してみて、やはり自分では難しそうだと思ったら、そのときに司法書士に依頼することにしても良いですね。
自分で相続登記をやってみたいという方向けに向けて、必要書類などを解説した、当ブログ内の記事も紹介しておきますね。
「不動産の所有者が死亡した場合の名義変更。自分でやるために必要な書類と費用が気になる方はこちら!」の記事
何事もそうですが、自分でやると手間や時間がかかります。
申請先の法務局は平日の午前8時30分~午後5時15分しか空いておらず、相談は基本的には予約制となっております。
お仕事などの都合でその時間に動くことが難しい場合は、やはり司法書士への依頼を検討された方が良いかもしれません。
司法書士に限らず、仕事を依頼する場合は費用がかかります。
相続登記の報酬は内容にもよりますが、やや複雑なものであっても15万円以内には収まることがほとんどだと思います。
まとめ
冒頭であげたよくある疑問と、それに対する回答を簡単にまとめておきます。
- いつから、相続登記が義務化されるのか?
→令和6年4月1日から - いつまでに相続登記をしないといけないのか?
→基本的には相続開始から3年以内
→自分が相続人であると知らなかったときは、知ってから3年以内 - 相続登記をしなかった場合、どのような罰則があるのか?
→10万円以下の過料 ※過料とは前科がつかない罰金のようなもの
やや専門的な話もあり、わかりづらい点などもあったかもしれません。
そのような場合はコメント欄・お問い合わせページ・Twitterなどから遠慮なくお問い合わせください。
湘南の不動産手続専門家。ショウ先生こと永田翔でした。